先週の金曜日に、シアトル中央図書館で開催された、米国歴史家Douglas Brinkely氏の講演会「The fight to save Alaska's wilderness」(アラスカの自然保護を巡る闘い)に行ってきました。
端的に言ってしまうと、Brinkely氏の新刊Quiet Worldのプロモーションだったのですが、アラスカの環境保護史については知らないことが多く、興味深かったです。
Quiet Worldは、600ページ近いかなり分厚い本なので、講演内容も簡単な紹介程度でしたが、1879年~1960年までの間に、アラスカの環境保護に関わった人達と、その取り組みについて、ざっくりと知ることはできました。
その中でも特に印象に残った(というか聞き取れた?)のは、米国初の環境保護区を設置したTheodore Roosevelt (セオドア・ルーズベルト)大統領のアラスカ環境保護政策と、Arctic National Wildlife Refuge(北極圏野生生物保護区)の石油採掘を巡る動向です。
※それにしても、TRがルーズベルト大統領のことだとは、Edが横でメモを見せてくれるまで気づきませんでした・・・。北極圏野生生物保護区の通称ANWR(アンワァー。発音難しいです)も分からず(>_<) Edによれば、アラスカン以外の人で知ってる人は少ないと思うから、知らなくて当然と言われましたが、会場にいた方々は、事前に本を読了済みだったのか、皆さん分かっているようでした・・・
イギリスの大学院で環境について学んでいた頃、最大の環境破壊国として、アメリカがよく槍玉に挙げられていました。唯一、アメリカの素晴らしい政策として挙げられていたのが、国立公園政策です。ヨーロッパと異なり、新しい国であるが故に、人の住む場所と自然を保護する場所を明確に区分けすることで、原始の状態(pristine nature)を守りやすくしている、と言われていました。
最初の国立公園イエローストーンは、レクリエーションを目的に開発された経緯があるため、ちょっと違いますが、イエローストーンの失敗から学んだアラスカのデナリ国立公園は、一大観光地である割には、人の出入りがよく管理されていると思います。イエローストーン国立公園には、一昨年行きましたが、分かっていても、やっぱり、ガッカリしてしまいました。事前に、行ったことのある友人全員から、隣のグランドティートン国立公園をベースにするようアドバイスされましたが、確かに、グランドティートンの方は、とても気に入りました。
しかし、国立公園制度のレールを敷き、アラスカの2つの国立公園を設置したのがルーズベルト大統領だったとは、ちっとも知らなかったです。
もう一つは、カナダとの国境に設置された北極圏野生生物保護区(ANWR)での石油採掘を巡る問題です。アラスカと石油は、切っても切れません。仕事の口がほとんどないアラスカで、石油採掘事業は、仕事と莫大なお金を落としてくれる事業として、歓迎されている側面があることは、否めません。
911の後にも、テロリストの温床である中東への石油依存から脱却するため、という理由で、ANWRで石油採掘をするか否か、議論が、激化しました。議論は、今でも続いています。
ANWRで検索すると、ANWR.orgというサイトがトップに出てきますが、石油会社から援助でもされているのか、石油採掘をすべきという主張が展開されています。
ANWRという単語自体が、石油会社が、野生生物保護区を破壊するという印象を与えたくないための隠れ蓑になっていると、Brinkely氏は言っていました。確かに、ANWRで石油採掘、と言えば、アラスカを知らない人には、よくわからないですね。
前アラスカ州知事サラ・ペイリン氏は、先月、ANWRについて、アメリカが中東から石油依存脱却をするため、カリブーが犠牲にならなければいけないのであれば、アメリカの一員として、カリブーにも身を捧げてもらいたい、という趣旨のことを、発言しています。また、ANWRは、美しい手つかずの自然とは言えない(less-than-pristine place)、とも。(
www.thedailybeast.com/blogs-and-stories/2011-01-30/sarah-palins-gun-control-warnings-at-safari-club-international/)
ハンター達の集まりでの発言ではありますが、アラスカの原野を見て、美しい、守りたい、と思わない感性の人もいるのだ、ということが悲しくなりました。
下の写真は、4~5年前に、アラスカ・フェアバンクス近郊で撮ったものです。左が、石油を運ぶパイプライン(真ん中で仁王立ちしているのが私です。身長170cmなので、高さ5m以上でしょうか)の近くで撮ったもの、右は、真ん中に人工のパイプラインが見えます。自然の中で、この人工物は、本当に醜かったです。パイプラインから石油が漏れ、生態系が破壊されるという事故も、何度も起こっています。一度壊れた自然は、簡単に元には戻りません。
講演の後、Edが、ぼそりと、Alaska is raped(アラスカはレイプされている)と呟いていました。
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